過日、ウィーンのレオポルド美術館ですばらしい美術展とイマイチの美術展を見てきました。この美術館は地上4階、地下2階というスケールですので、いくつかの異なった美術展を同時に並行して催すことが可能です。
まず、すばらしい方ですが、タイトルが『日本:存在の儚さ』という美術展。非常に見ごたえがありました。カタログには服部玄三(セイコー社二代目社長)コレクションとあり、日本で未だ出展されたことがない貴重な掛軸や屏風、墨絵などを見れたのは大きな喜びでした。カタログには往年の名バイオリニスト服部豊子氏が、コレクターの玄三氏について記されているのですが、この方が玄三氏三男成三郎氏の未亡人だとはついぞ知りませんでした。ご夫婦揃って「コレクションを興味のある方のために展示したい」と長年望んでおいでだったそうですが、この豊子氏の尽力がなければかようなすばらしい美術展は不可能だったことでしょう。会場における「強、柔、軽、寂、清、謎、無」という仕切りもよく、書家の揮筆のビデオも興味深く、久しぶりに満足感を覚えた美術展でした。またカタログの内容も充実していて、太糸で綴じるという風流な趣向と相俟って出色のカタログだと思います。なお表紙の絵は竹内栖鳳の「柿の実」の一部で、絵心があり無類の柿好きでもある家内はオリジナルの掛軸を見て感嘆しきりでした。ご参考までにカタログの表紙の写真を添付しておきます。なおこの美術展は1月下旬で終了の予定でしたが好評のようで2月14日まで延長されています。
イマイチの方はタイトルが『男性ヌード展』。ヌード展というのは、ふつう女体を扱ったものでして、男のヌード展なんて前代未聞…しかも伝統的かつ保守的な街であるウィーンの美術館で催されるということで評判になり、ドイツのマスコミでもとりあげられたほどです。主催者の趣旨は「男のヌードは古代からあって、ルネサンス時代はもとより、近代および現代にも注目されるべき作品は結構あるのに、それをテーマにした美術展というのはいままで忌避されてきた。このゆゆしき現状を打破すべく画期的な『男性ヌード展』を開催するに至った」ということで確かに一理あります。ところがこの美術展のポスターが、『超』がつくほど挑発的で、男性サッカー選手に扮する皮膚の色が違う3人のモデル(アフリカ系、アラブ系、欧州系)がサッカー場で観客をバックに全裸で立っている写真(註:美術展ではオリジナルが芸術作品として展示されています)なのですが、これが善良なウィーン市民の顰蹙を買い、ひと悶着の末に主催者側が問題の箇所をテープで隠蔽することを余儀なくされるという事態になりました…いや、なったはずなのですが、我々がウィーン市内でみたポスターにはどういうわけかテープは貼られていませんでした。日本だったらまちがいなく公衆わいせつ罪にひっかかりそうなシロモノです。幸か不幸か、このポスター騒動でこの美術展に対する関心が強まり、連日大入りとなって、3月4日まで延長されるようです。肝心の美術展そのものは、家内にとっても小生にとっても、さほど印象に残るようなものではありませんでした。ミケランジェロのダビデ像が唯一無二の男性像という先入観をぬぐえないからでしょう。
しかしここまで正反対の特別美術展を二つ並行して催すとはどうも理解しがたいです。美術館も太っ腹ですね。見る方にとっても切り替えが大変です。家内にいわせれば、「どうして?日本展は地下2階、男性ヌード展は地下1階で空間が違うんだから、全く問題ないよ」ということになるのですが、上記の問題のポスターを歯牙にもかけない女性ですので、こと美術に関しては彼女の神経はさほど繊細でないようです。
近日中にドイツ・オーストリアにおいでになる予定がおありでしたら、ウィーンまで足をのばして是非レオポルド美術館を訪れてみてください。常設展としてシーレの作品展も催されています。








