目下、オーストリアの東南部にあるバート・ブルーマウ(Bad Blumau)という小村の温泉で休暇を過ごしています。この温泉についてはすでにコラム105号で少し記しましたが、正式にはローグナー バード・ブルーマウ温泉といい、ローグナーという事業家が建てたものですが、建築がフンデルトヴァッサーのデザインによるもので、他の彼の建築物と同様、きわめて奇抜なものですので、一般に「フンデルトヴァッサー温泉」と呼ばれています。
で、このバート・ブルーマウというのが大変辺鄙なところにあります。シュトゥットガルトから空路でグラーツまで1時間15分。到着後、レンタカーを借りる予定だったのですが、VISAのクレジットカードを忘れたせいで借りることができず、グラーツの中央駅から鈍行二便を乗り継いで2時間ががりで到着(クルマだと小一時間)。バス停みたいな感じの駅で、鈍行列車内のベルを押して降車希望を知らせないと停車してくれないのです。そんな駅ですから下車しても何もありません。もちろんタクシーなどは論外です。「えらいところに来てしまったな…大丈夫かいな…」と、さすがに不安になりましたが、引き返すわけにはいきません。スーツケースを転がしながら20分ほど歩きますと、丘の中腹にあるフンデルトヴァッサー温泉の入口に到着。中へ入ると40ヘクタールの敷地に大小とりまぜたフンデルトヴァッサーのカラフルな建築物があちこちに見られ、期待通り「おとぎの国」に入り込んだような錯覚に陥りました。
外観だけではなく内部の廊下や壁も奇抜で、これはウィーンのフンデルトヴァッサー美術館でもそうでしたが、この温泉ではホテルの客室も四角四面ではなく、随所に効果的な曲線がみられます。周囲は森で、この温泉施設全体が違和感なく自然に溶け込んでいてすばらしい。さすが自然との調和を絶えず念頭においていたフンデルトヴァッサーだけのことはあります。その影響からか、出る食事の素材はできるかぎり地元産のオーガニックで、すべて新鮮に調理されたものばかり。果物はスモモ、リンゴ、ブドウ、黄桃など地元のものばかりで、滞在して3日経ちますがバナナやパイナップルなどは見かけません。
またフンデルトヴァッサーにとって重要だったのは窓で、「同一の窓が整然と並んでいるというのは嘆かわしい。窓は踊ることができなければならない」と考えていたようです。この温泉施設にはおよそ2800の窓があるのですが、細部の違いも含めてどれひとつとして同じものはない…ただし例外がひとつだけあって、全く同一の窓が三つある。どこにあるかわかりますか?というのがホテルからの質問なのですが、見つけられませんでした。また300以上ある柱には、ただの支えというだけではなく、「もたれかけてください」というメッセージもあるようです。ご参考までに窓と柱の写真を以下に添付しました。
温泉には三つの源があり、ミネラルの含有量が違いますが硫黄の臭いはしません。水温は温かい温泉プールでは室内、野外とも36℃に保たれ、20分以上入らないようにとの指示があります。あまり長く浸かっていると強い頭痛に襲われる可能性があるようです。温泉から出て長椅子に横たわり、本を読んだり、数独を解いたり、何も考えずにまどろんだりと、年齢相応のだれ切った休養を堪能していますが、明日は自転車を借りて近辺をまわってみるつもりです。
ホテルが毎日発行する宿泊客向けの情報紙にフンデルトヴァッサーの箴言が掲載されます。昨日の箴言は『成長する樹のように、そして流れる川のようにふるまうことによって、自然に近づくことができる』でした。また彼は「黒」を非常に好んだようですが、その理由というのが「他の色を輝かせるから」で、たしかにこれは納得できます。また「緑」をこの温泉施設にさほど使用しなかった理由として「緑は自然の色だから」と述べたようですが、たしかに、どんなきれいな色の緑を壁や窓に塗ったところで、森の緑にはかなわないですよね。フンデルトヴァッサーというのは作風のみならず言動も卓越した芸術家だったと改めて感じ入っています。








