10月に日本に滞在していた折、ヴェレダ製品を愛用してくださっている方々との座談会が大阪と東京であり、大阪では、小生と同郷で、しかもドイツにご在住という方から松本清張の「暗い血の旋舞」という本をいただきました。この方は小生のコラム第5号をお読みになっていて、クーデンホーフについての小生の疑問に答えるべくこの本をくださいました。すなわち松本清張のこの本は青山光子の生涯を描いたもので、クーデンホーフ家の家系図が入っているのです。そしてこの家系図によれば小生が知り合った人物は青山光子の三男で、汎ヨーロッパの父といわれた人物は次男、すなわち彼の兄で、同一人物ではありませんでした。
しこりとして心の中にあったいくつかの疑問が解明されてホッとしました。またこの本はクーデンホーフ一家のことが非常に興味深く記されており、ウィーン市内の記述とあいまって小生にとって非常に印象深い本となりました。座談会でこのような奇遇があるとは思ってもいませんでした。この方にこの紙面を借りて改めてお礼申し上げます。
座談会では一部の方に先回のコラムの質問「あなたの一番好きな本は何ですか?」をしてみました。即答される方が結構おいでになり、読書を趣味とされている方が多いと感じました。しかしこの座談会に先がけて同じ質問を気がおけない友人、知人にしてみましたら、返答はなく、かわりに叱責が返ってきました。またもや叱られるハメになってしまったのですが、以下に二例を紹介いたします。
(1)「あのね!他人にそのようなことを聞くまえに、まず自分の一番好きな本を言いなさい!自己紹介といっしょで物事には順序があるのよ!」
これには反論の余地なし。大変失礼いたしました。小生の一番好きな本はジブラ ンの『預言者』です。大昔、長男が生まれた際、知人がこの『預言者』の中の「子供について」の一部をカードに書き抜いて送ってくれたのですが、一読して大きな感銘を受けたのがこの本と出合うきっかけでした。内容は人間の普遍的な事柄をテーマにした散文集で、師の登場と去就の設定が見事です。
(2)「失礼ね!なんでそんな恥ずかしいこと聞くのよ!」
この方なにか勘違いしているのでは…それとも愛読書が斎藤純の「沈みゆく調べ」(蛇足註:クラシック音楽(界)をベースにした稀代の官能小説)なのでしょうか?…あるいは「自分の読んでる本のタイトルを他人に知られたくない」という感情が日本人にはあるのでしょうか?それが証拠に書店で本を買うと、例外なくその書店の名前の入ったカバーをかぶせてくれる。電車の中で読書している人をみると殆どがカバーをつけています。
こういった、本にカバーをつけるといった習慣はドイツにはなく、逆にカバーがないことで話し合うきっかけになることがしばしばあります。先だって小生がシュトゥットガルトからグミュントへ戻る急行列車の中で、駅構内の本屋で購入したばかりのジュースキントの「香水」を開きはじめましたら隣に座っていた見知らぬ叔父サンが「おや、『香水』をお読みですか?私も読みましたが実にいい本です」と話かけてきました。こういった車中の偶然の会話も楽しいものですが、日本ではこうはいかないですよね。「読書中の人の邪魔はしたくない」という思慮がそうさせるのでしょうね。








