先日、ベルギーを周遊してきました。首都ブリュッセルへはまだ一度も行ったことがなく、世界一すばらしいといわれるグラン・プラス広場やアトミウム、小便小僧と名所がたくさんある街で、かねてから行きたいと思っていたのですがお目当てのアトミウムは修復中で見学不可能だったものの、市庁舎前の広場の見事さには圧倒されました。ヨーロッパ旅行をされることがありましたら必ずブリュッセルを訪れてください。
アントワープへも足をのばしました。ここも歴史と由緒のあるいい街ですが、日本人にとっては「フランダースの犬」の舞台となった街として著名です。この物語は日本で一番読まれている童話ということですが、忠犬ハチ公を例に挙げるまでもなく、そもそも犬が出てくる悲劇物語というのは日本人の琴線に触れるということなのでしょう。また「フランダース」という地方名の語感が日本人の耳にはよろしい。しかしこの物語がよく知られているのは日本だけで、当地ベルギーでさえ「フランダースの犬」といっても知る人などごくわずかといいますし、ドイツのベルギー旅行ガイドブックには全く出ていません。アントワープを訪れる日本人観光客は観光案内所で必ずこのネロ少年と愛犬パトラッシュの記念碑のありかを訊ね、「そんなものない」と言われて憤懣やる方ないといった日本人があまり多数になったため、2年前にやっとのことで市の観光局と日本の企業が石碑を大聖堂の前に設置しました。ネロとパトラッシュの顔を描いた丸いガラスがはめ込まれていて、夜になると内側が赤く灯って日の丸のように浮かび上がるというものですが、ベンチになりうる型ですので観光者がこの石碑に腰を下ろしていると目に留まりません。小生も見落としたことに気づかずに、ネロが住んでいたというアントワープ郊外の村に向かいました。
これに先がけて中央駅の案内所でインフォーメーションを収集した際、担当官に「Dog of …」といいかけましたら、小生が日本人であることをいちはやく見抜いたようで、「皆まで言うな!わかっとる!」とばかり勝手に地図を広げて行き先名、市電の番号、料金、所要時間、さらに終点だから降り損ねることはない、などを詳しく説明してくれたあと、「でも高さ数十センチのちっぽけな像だよ」とごていねいに付け加えてくれました。「わざわざ見にいくほどのものじゃないけど…」といいたかったようですが、ここで引き返せば日本人観光旅行者の沽券にかかわります。何が何でも…と意地でホーボーケン村に勇んで乗り込んだのはいいのですが終点に着いて降りたものの、像も何も見当たらず、道標もありません。タバコを吸いながら出発時間を待っている市電の運転士に地図をみせて、またもや「Dog of …」といいかけましたら、「この通りをまっすぐ歩いて最初の通りを左!」といいながら手で方向を示してくれます。半信半疑で歩きましたらはたして、ごくふつうの通りに立っているネロとパトラッシュの像に出くわし、『さすが!』と思わず膝を叩きました。まさに「一を聞いて十を知る」で、観光局の担当官といい、この市電の運転士といい、「日本人とくればホーボーケンの像」と相場が決まっているようで、おそらく連日、多数の日本人の「フランダースの犬の観光客」の相手をしているのでしょう。なお像の方は台座に立っている関係で高くなっており、像自体は80センチぐらいと見受けました。20年前に除幕されたということです。でもやはりこのホーボーケンまで出てくる人は少ないようで、アントワープ市内しか出歩かない日本人観光客用にやはり新しい記念碑的なものが必要になったということです。帰りの市電の中でこの石碑を見落としたことに気づき、再度大聖堂まで足を運び、無事見ることができました。
蛇足ですが主人公の少年の名がネロで、ネロといえばローマ時代の暴君ネロを思い出すのですが、少年はNello、暴君はNeroでスペルが異なります。片仮名で音訳しますと両者とも全く同じですが、アルファベットではまるで違います。「L」と「R」の違いは日本人には想像できないほど大きなものであるということを改めて痛感しました。








