せんだって(8月下旬の平日)女性2人、男性3人のメンバーで富士山に登ってきました。男性3人のうち2人がスイス人だったのですが、スイス人は例外なく山登りを趣味とする民族でありまして、めっぽう健脚。これとは逆に小生はこのグループの中で最年長というよりは唯一の長老。加えて小生は3700m台の山には一度も登頂したことがなく、おまけに最後に登頂した3000m級の山が10年以上前の話で、富士山に登る前から「大丈夫かな?」という不吉な予感はいささかありました。したがいまして新しい登山靴を購入して3ヶ月間前から足を靴に馴らせるために会社へも登山靴で出勤し、サボりがちのジョギングをちゃんとこなし、さらにステッパーで毎日2000歩踏み込んで、「まぁ、富士山登頂の最低条件は満たしたかな」と満を半分ぐらい持して、日本到着翌々日に登ったのですが、考えが甘すぎました。
プランを練ってくださった女性の勧めで須走口5合目からスタート。途中、コゴメグサ(スイスでは法律で採集が禁じられている眼病用のハーブです)をグループのひとり(薬剤師)が発見したり、3200mまで植物が育っているのに感心したり(小生がいつも登っていたオーストリアの山々では2500mを越えると岩場だけになってしまいます。緯度の高さが関連しているのでしょう)で楽しかったのですが、途中7合目で足がまるでコンクリートを注入したかのようにコチコチに固まってしまったのには動揺しました。一行を先に行かせて、アルニカ軟膏を太ももと脹脛にたっぷり塗り足を揉んでいましたら30分ほどで何とか回復。マイペースでゆっくり歩いて宿泊先の山小屋(8合目)に一行に遅れること数時間で無事到着。
翌日は頂上でご来光を拝むべく未明から出発。昨日と同じく一行から離れて懐中電灯で足元を確かめながらマイペースで一歩一歩噛みしめるように、休憩を十分とりながら登りました。天候に恵まれて天空は満点の星。オリオン座の内外にあんなに沢山の星がちりばめられているとは知りませんでした。そして、ご来光の1時間ほど前に水平線に現れた見事な金星。あのような大きな金星は初めて見ました。頂上にはご来光直前にギリギリで到着。日の出の荘厳な雰囲気を満喫しようとしましたら、後方から売店の方が「ご来光です」と頼みもしない「いわずもがな」のご案内をマイクでがなりたてたあと、ロック音楽が大音量でスピーカーから流れてきたのには落胆しました。なぜ、このような厳かな場面で霊験さをぶち壊すようなことをしなければならないのでしょう? 憤懣やる方なく一人で憤っていましたら、同行のひとりが「そんなことをいうアンタが古いのだ。周りをみろ。若い人達ばかりだ。若い人達にはこの荘厳さにこの曲(蛇足註:なんでも”We will rock you”とかいう曲らしいです)がマッチしているのだ」と自分もとっくに50才を越えているのにしたり顔で言うのです。さすがに腹が立ちました。
落胆→憤懣→立腹でむしゃくしゃしているところで、この中年スイス人男性が持参したスイス、日本、ドイツの小さな国旗を振りながら5人で記念撮影。小生はドイツの旗を振らされたのですがきっと憮然とした表情をしていたはずです。ふと思い出したのが7年前、フランスの海岸で見た皆既日食。砂浜で仮ステージが建てられ、いくつかのバンドがたむろしていましたので「これはまずい」と思っていたのですが、予想に反して皆既日食の前後は静寂そのもの。およそ口では言い表せない不気味さにとりつかれた数百人の人間が、まるで呪文にかかったかのように黒い太陽に束縛されていました。あそこで若者に迎合してロック音楽などを流されていたら……100年に一度とかいうヨーロッパでの皆既日食は台無しになっていたでしょう。
ともあれ、「富士山に登らないバカ、二度登るバカ」とか「富士山は見る山で登る山ではない」とか富士山にまつわる説は多々ありますが、「登って本当によかった!」と断言できます。一度はぜひ登っておくべき山でしょう。まだ富士山に登頂されたことがない方、ぜひ実行なさってください。健脚でなくてもマイペースで登れば必ず登頂できます。小生が身をもって実証しました。
さて誠に勝手ながら今回をもってこのコラムを終了させていただきます。来月から日本に仕事の拠点を置くことになり(一年の約4分の3を日本で過ごし、残りはドイツです)ヨーロッパのこぼれ話を毎月お伝えできなくなってしまうからです。長いあいだ(3年以上続きました!)、ご愛読どうもありがとうございました。








