
タイムは、シソ科の植物でその原産は地中海沿岸地方です。背丈は30cmくらいまでになり、淡いピンクや白色の花を咲かせます。タイムという名前は、ギリシャ語のよい香りを意味する「チュモス」に由来しています。また、その和名をタチジャコウソウといい、現在では世界各地でいろいろな種類が栽培されています。ちなみに、日本に自生しているのはイブキジャコウソウのみです。
タイムは、昔から薬として利用されてきた歴史があります。特に、タイムの殺菌消毒剤としての働きを風邪、咳や咽頭炎の緩和になどに利用してきました。また、薫香としても用いられ、ギリシャの神々の祭壇で炊かれていたようです。古代のエジプトでは、ミイラの防腐に効果があると考えられ用いられました。ローマにおいては、タイムの枝を判事が法廷内に持ち込み、感染症を寄せ付けないようにしました。
さて、このハーブはいつの時代においても様々な料理に使用されてきました。そして、現在でも肉や魚の料理に使用されているため、皆様もよくご存知のことと思います。特に、その強い香りで肉や魚の臭いを消す効果がとても高いため、スープや煮込み料理に用いられるブーケガルニにはパセリやローリエなどとともに欠かせないハーブのひとつです。一方、ハーブティーとしてもよく飲まれるタイムは、優れた強壮効果があり、神経性の病気や胃腸機能の働きを高める効果もあります。さらに、タイムの精油は腐敗を遅らせる力があることは前述しました。そこで、冷蔵庫ができる以前は、肉料理にしばしば使用され、調理された料理の保存に効果を発揮しました。このことは、現在では科学的に立証されています。すなわち、この精油に含まれるチモールという成分が、優れた殺菌・防腐効果を持っているからです。
タイムの精油には、それほど刺激性が強くない数種類のタイプがあります。これらは、すべて同じ種のものから抽出しますが、産地が違うことにより抽出された精油の組成が著しく異なります。これらはケモタイプと呼ばれ、標準的な精油とは区別されます。そして、このケモタイプのものは、標準的なものに比べてそれぞれ独自の特徴を有していますが、一般的には作用が緩和で皮膚を刺激することも少ないようです。
最後に余談ですが、サイモン&ガーファンクルの「スカボロ・フェア」という曲をご存知ですか? この歌詞の中に何度も「パセリ、セージ、ローズマリー&タイム」とタイムがでてきます。この曲を知っているけど、上記の歌詞が出てくるのかと疑問の人は、ぜひ確認してみてください。知らない人は、一度聞いてみてはいかがですか? とても心地よい曲ですよ。
上記は植物の一般的な性質を述べたもので、化粧品の効能を示したものではありません。
植物化粧品開発研究員 宮地 博信