7月初めの平日、いつものように家内と朝食をとりながらラジオを聞いていましたら、近郊の催し物を知らせるコーナーで「The Erlkings」が紹介されました。あまり気にもかけず聞き流していましたら、ウィーンからのカルテットでボーカル(ギター)、ドラム(ビブラフォン)、チェロ、チューバという、かって聞いたことのない編成。しかも出し物がシューベルトの「美しき水車小屋の娘」とあって、家内が「わ、すごい!面白そう。ねぇ、聴きに行こうよ!!」と言い出したのには驚きました。いまだかって家内が自らコンサートに行きたいと主張したことは一度もなく(いつも小生がコンサートを独断で選定しております)、カルテットの名前が「魔王たち」で、すぐにシューベルトの有名な歌曲を連想させるものの編成がどうも疑問に思えて躊躇していましたら、小生の心境を見透かしたようにシューベルトの「野ばら」の一部が試聴用に放送され、これがとてもユニークで面白かったものですから(テキストは英語!)、家内に同意して二日後に迫ったコンサートのチケットをネットで購入しました。
会場はグミュントから西北およそ70km離れたビーティヒハイム=ビッシンゲン(Bietigheim-Bissingen)という、小さな町の元ブドウ搾取場だったところ。簡易舞台に折り畳み椅子が200席ほど並べられていまして、ほゞ満席でしたが聴衆の大半が50才以上でした。
ウィーンからのカルテットとはいうものの、中心人物はあくまでギター弾き語りのボーカルで、これがアメリカ人。自分の母国語でシューベルトの歌曲を歌いたいという思いがカルテット結成につながったとか。
演奏はラジオで聴いたとおりの軽いノリで楽しめました。軽いノリに一役買っていたのがチューバでして、チューバというと読者の皆様方には「ブラスバンドの低音楽器」というイメージしかないと思いますが、当地では祭りや地元のイベントなど、事あるごとに演奏されるVolksmusik(あえて民衆音楽と訳しておきます。ふつう3~5人ぐらいで演奏されます)に欠かせない楽器でほのぼのとした響きでリズムを刻みます。
ボーカルの英語のテキストは全く気にならず、フォークソング向きの心地よい歌声はシューベルトの歌曲によくマッチしていました。いいアイデアだと思ったのは歌曲の間にストーリー(粉挽きの若者の片思い)をユーモアを交えて説明していたことで (これはさすがにドイツ語でした)、歌曲集としての流れがクラシックにあまり縁のない聴衆にもよく理解されていたように思えます。堅苦しいリーダーアベント(Liederabend=歌曲リサイタル)ではこうはいきません。長い休憩(30分)をはさんでの演奏でしたが、休憩から戻ってボーカルが『(休憩から)戻ってきてくださってありがとうございます』とまずお礼の一言。聴衆は皆笑ったのですが『いや、いつもそうとは限らないです。休憩後多くの人が帰ってしまうこともあるんです』と告白。好感が持てましたし、「こういうシューベルトもありだな」と思えましたのでCDを買って帰りました。「美しき水車小屋の娘」と「シューベルト歌曲集」の2種類が展示即売されていましたが、「野ばら」や「魔王」など十数曲が入っている方を選びました。
後日このCDを聴いてみましたら「野ばら」、「鱒」、「ミューズの子」のように軽快なリズムの曲には思わず笑ってしまうような箇所がいくつかあり、トランペットとチューバの持ち替えもあって十分楽しめました。とはいえ、このカルテットは実演を聴かないと(見ないと)その面白さを十分堪能することができません。YouTubeでこのカルテットを見ることができますので、一風変わったシューベルトに興味のある方はぜひご覧になってください。








