先ごろ、バラの棘について考えを巡らしていましたら、まずシューベルトの有名な歌曲「野バラ」が思い浮かびました。詩はゲーテによるもので、まず男の子がバラに向かって「折ってやる」というのですが、バラは「折るんだったら棘で刺すよ。私のことを永久に忘れないようにね!」と脅します。男の子は刺されますが構わずにバラを折ってしまうという内容です。ここでバラは折られてしまいますが、棘で「刺す」という抵抗を試みます。イラクサも棘こそありませんが葉に触れてその痛さに驚いた方も多いと思います。兎がイラクサの葉を食べようとしても、一番敏感な鼻にイラクサの葉が触れたとたん、あまりの痛さに仰天した兎は二度とイラクサを食べようとしなくなります。
刺されたり、かぶれたりした場合はまだマシな方で、毒でもって対処されると事情が違ってきます。トリカブトは猛毒性の薬草で致死となる場合があります。ジャガイモにも毒があり、根茎を食べているうちは問題ないのですが、スペイン人によってジャガイモがヨーロッパにもたらされた際、十分な認識を持たない多くの人が葉茎を食べて重病となったことは良く知られています。ワラビにも毒があり、家畜が摂取すると中毒にかかります。
さらに調べてみますとトマトは葉にアブラムシが付いて葉をかじりはじめると繊毛から粘着性のある物質を分泌するとあります。そうするとアブラムシは身動きがとれなくなり、あえなく飢死してしまうというわけです。同じ殺すにしても自ら手を下さず、第三者を利用して間接的に害虫を委託殺害の遂行する植物もあります。ニレに付くニレハムシは葉に卵を産みつけますが、そうするとニレは化学物質を発散してニレハムシの天敵スズメバチを呼び寄せます。またコロラドハムシはジャガイモにつく害虫ですが、その幼虫がジャガイモの葉に害を与え始めると、ジャガイモはコロラドハムシの天敵サシガメという虫に合図を送ります。好物のムシをみつけたサシガメは長い触角を幼虫に挿しこみ、ハムシをひからびさせてしまいます。
いろんな方法で植物がわが身を守るというのは理解できますが、意外なことに同族を排他しようとするものもあります。たとえばクルミはその陰では他のクルミが育たないように仕向けます。クルミの葉にはハイドロジュグロンという物質が含まれていて、当初は毒性がありません。ところがこの葉が落葉して地面に届くと微生物の働きによりハイドロジュグロンがジュグロンという毒性物質に変換され、さらに土壌に蓄積されて、他のクルミの成長が妨げられるわけです。このタイプの木はけっこうあるようで、クルミの他にもユーカリやリンゴが挙げられていました。
植物界における保身は人間や動物のそれと違って静かで目立ちません。穏やかに生きているように見える植物にも生きるための様々な戦いや葛藤はあるのですね。








