7月上旬のある日の早朝、いつものようにシャワーを浴びていましたら家内が緊迫した小声で「早くおいでよ!穴熊が庭にいるよ!窓越しに見える!」と呼びます。あわてて浴室を出たものの穴熊が見える窓を勘違いしてもたついているうちに穴熊は去ってしまい、見ることはできませんでした。狐には何度か出くわしていますが、穴熊はまだ一度も見たことがありません。残念至極…と腕を組んでいましたら、家内が急に「合点がいった」とばかりに手を叩き、「穴熊は針鼠の天敵なんだ。だから昨日おとといと針鼠が餌を食べに来なかったんだ」と嘆くことしきり。6月下旬から毎晩数匹の針鼠が餌皿にやってくるようになり、やっとのことで針鼠の餌づけに成功したと喜んでいた矢先でしたので、その落胆ぶりも相当です。
しかし穴熊というのは非常に臆病で、どう考えても住宅街に出没するような動物ではありません。農家出身の家内でさえ、生まれてこの方一度も生きた穴熊を見たことがないというほどです。「それでよく穴熊と分かったね?」と聞きますと、「長さが約50cmで幅が30cmぐらいの大きさでずんぐりしていて、頭の中央と両脇に白い線が入っていれば穴熊に間違いない」との返事。そして「憎っくき穴熊め、どうしてくれよう!」と怒り心頭で市役所に電話。「穴熊を駆除する方法は?」と質問すると「犬をどこかから数日借りるのが一番いいのですが、犬の毛を穴熊が出没したあたりに置いても効果はあります。近々猟師に連絡させましょう。」との返答。そしてその日の夕刻6時過ぎ(北国ですのでまだ日は高いです)、庭の一角の針鼠用コーナー(枝、藁、干草などを置いてあります)から異臭が漂うのを家内が目ざとく、いや鼻ざとく感知し、「どうしたのかな?」と藁を除去しようとした瞬間、くだんの穴熊が出し抜けに飛び出しました。「キャーッ」と大きな悲鳴を上げて尻もちをついたらしいのですが、幸いなことに小生は居間にいまして騒ぎに一向に気づきませんでした。居間に戻ってきた家内は「どこにいたのよ!もう心臓が止まるかと思うぐらいビックリした…まさかあんなところに穴熊が隠れていたとは…」と肩で息をしながら報告。「それは大変だったね!しかし穴熊の方もキミの倍以上驚いたことだろう…どこかで気絶してるんじゃないかな?」と庭に出て調べましたら、あちこちに穴熊が掘り起こしたような穴があります。しかし針鼠を殺害したような形跡はなく、針鼠を追い散らしただけなのでしょう。この日の夜も針鼠は出て来ず、夜遅く桜の木の下をうろついている穴熊が再度確認されただけでした。この日一日だけで家内は三度も(うち一回は至近距離)穴熊を目撃したことになります。
翌朝、庭を調べましたら昨夕に増して穴熊が掘った穴を確認す得ることができ、この穴熊がどうやら拙宅の庭を自分の縄張りと認識しているかのような印象を受けました。そこへ出勤途中の家内が電話で「うちのすぐ近くの自動車道で穴熊がはねられて死んでいる。昨日穴熊を見損ねて残念そうだったから見てきたらどう?」と知らせてきました。で、早速現場に赴き、動かなくなっている穴熊を観察したのですが、前足の爪が異常なほど大きく鋭いのには驚きました。梟と並んで針鼠の天敵と言われるだけのことはあります。
そして夕方、市役所斡旋の猟師がやってきまして庭をチェック。「洗熊ですな」と断定するのを家内が遮って「穴熊です!間違いない」と反論。大きさや移動箇所を聞いた上で、猟師は生後1年ぐらいの若い穴熊と推定。成長した穴熊は80cmにもなるといいます。親元を追い出され、餌を求めて民家の庭を放浪せざるを得なくなったにちがいないともいい、さらに魚の頭とサクランボに目がないのでこれらを排除すれば穴熊はまず出没しなくなる…などと穴熊の生態について興味深い話を聞くことができました。まずいことに拙宅の庭には大きな桜の木が二つあり、すでに実が落下し始めています。これで前夜に穴熊が桜の木の周辺をうろついていた原因が明らかになりました。猟師は「数日様子をみてまだ穴熊が出没するようなら電話ください。罠を持ってきます」と説明したあと、そそくさと帰って行きました。
さらにその翌朝、庭を確認しましたら、穴熊による新しい穴はありませんでした。クルマにはねられた穴熊はどうやら拙宅の庭を荒らして針鼠を駆逐した元凶だったようです。しかし穴熊の強い悪臭は敏感な嗅覚をもつ針鼠にとって危険信号です。よほどの大雨でも降らない限り異臭は消えないでしょう。
穴熊騒動からすでに3週間経ちますが、いまだに針鼠の再訪の気配はありません…








