東京が2020年オリンピック開催都市と決まった2週間後、日本中がまだその歓喜の余韻に浸っていた時にドイツで総選挙があり、予想通りメルケル首相率いる保守政党が圧倒的な勝利を収めました。今月のコラムはこのメルケル首相について、日本ではあまり知られていない彼女の特徴や個性について記してみたいと思います。
メルケル首相はすでに2005年から8年間首相を務めており、さらに今回の選挙での勝利で向こう4年間、第3次政権を担うことになります。このように長期にわたって首相の座にいるというのは、メルケル政権発足当時にはおよそ考えられなかったことで、ドイツ初の女性首相ということもあり、期待よりも不安の方が大きかったと思います。ところがフタを開けてみれば、意外に優れた政治家であるということが次第に明らかになっていきました。政治家としてのスタイルが直感的ではなく、良く言えば「根気よく待つ」、悪く言えば「躊躇する」という態度なのですが、これが彼女の政治家としての成功の原因で、さらにこの背景には彼女が物理学者であるという事実があります。高校と大学で非常に優秀な成績を修めるのですが、博士号を取得しているということを知っている人は殆どいません。ちなみに物理学者といいますのは大きな難題に取り組む際、その大きな問題をまず解体して、いくつかの小さな問題とし、それらを一つづつ解決していきます。これがメルケル首相の仕事ぶり(正確に動く時計にたとえられることが多いです)に反映されるというのですが、たしかに法律や経済を学んだ政治家の多いなかで、彼女の経歴は異色です。また彼女の父親は牧師でしたので、人の話を「聞く」という態度も身についていたのではないかと思います。欧州共同体の中で最も重要なパートナーであった当時のフランスの大統領サルコジを手玉に取り、丸めこんでしまったことから、フランスでは「サルコジじゃなくてメルコジだ」と言われていましたが、メルケル首相はヨーロッパでは最も重要な政治家となっています。
女性首相としてよく比較されるのは80年代の「鉄の女」と呼ばれたイギリスのサッチャーですが、初の女性首相、保守党所属、理科系出身といった共通項はあるもののサッチャーほどの冷徹さ、強硬さ, 近寄り難さというのはメルケル首相にはありません。メルケル首相は身長165cm(ドイツ女性の平均値と同じ)で、ずんぐりした体形。およそ美形とは言えず、服装ももっさりしているのですが、これらの点がシナジー効果を生み、「親近感のある庶民派」という印象を与えます。このあたりにも彼女の人気の高さの一因があるようです。「ドイツ国民のかあちゃん」とも言われ、首相自身も満更ではなさそうですが、彼女には子供はいません。
東西両ドイツの統合に功績があったコール首相は16年という長期政権の末に国民から飽きられ嫌われてしまいましたが、メルケル首相には今のところそういった気配は皆無で選挙期間中どこへ行っても、まるでポップスターのような人気ぶりでした。59歳というのは政治家としては全盛期でしょう。今後の彼女の手腕に期待したいと思います。
Dr. Nonaka’s Column vol. 112
メルケル首相

野中 潤一博士
大阪府堺市出身。京都音楽大(現・京都芸術大)管楽器科卒業後、ウィーン国立音楽大に学び、フルート奏者としてオーストリアの劇場オーケストラに籍を置く。26歳で退団し、ウィーン大学理学部化学科に入学。同大学修士課程、およびマインツ大学(ドイツ)博士課程を修了し、1984年ドイツ・ヴェレダに入社。自然化粧品の開発を手掛け、その後化粧品開発責任者に就任。現在はヴェレダの教育・研究顧問としてヨーロッパおよび日本でワークショップやセミナーを行っている。







