ヨナス ヨナソンというスウェーデンのベストセラー作家がいます。2009年にスウェーデンで出版されたデビュー作『窓から逃走した100才のおじいさん』(英訳のタイトルはThe Hundred-Year-Old Man Who Climbed Out the Window and Disappeared)があっという間にスウェーデンでベストセラーとなり、世界35カ国で翻訳され、ドイツでは2012年1月から2013年4月までベストセラー1位の記録を打ち立てました。そして彼の第二作『計算ができた文盲の女性』(英訳のタイトルThe Girl who Saved the King of Sweden)がドイツでこれまた大ヒットとなり、とにかく評判が高いのです。いったいどんな本なのか…2冊とも読んでみたのですが、荒唐無稽でべらぼうに面白い。しいていえばデビュー作の「100才のおじいさん…」の方が小生には面白かったのでストーリーを大雑把に記します。
老人ホームで100才の誕生日を迎えたアラン・カールソンはホーム挙げての彼のためのセレモニーを好まず、式が始まる1時間前に自室の窓から逃走します。そして歩いて向かったバスセンターで、急にトイレに駆け込まざるを得なくなった若い男からスーツケースを見張っているよう依頼されますが、若者が出てくるのを待たず、スーツケースを置き引きしてバスに乗り込みます。ここから本格的な逃亡生活が始まり、70才のフリーランスの泥棒ユリウスのところでやっかいになっていると、件の若者がスーツケースを取り返しにやってくるのですが、うっかり殺害してしまいます。スーツケースの中味は5000万クローネという麻薬がらみの大金であることが判明し、大金を持った2人が逃亡の途上で自称元万年学生の移動軽食車オーナーのベニー、農婦グニラ、サーカスから逃げ出した象のソニア(グニラのペット)、ギャング、警官、検察官などを巻き込んで奇想天外のドタバタ展開となり、要所要所で種々の爆弾が炸裂します。この一ヶ月半にわたる逃亡生活ストーリーに、アランの100年にわたる波乱万丈の人生が織り込まれ、スペインの独裁者フランコ、アメリカのトルーマン大統領、蒋介石、毛沢東、チャーチルなどに加えて、アインシュタイン(の弟らしき人物)も登場するのですが、著者はさすが元ジャーナリストだけあって歴史的考察も人物描写も秀逸で、これらの人物に対するアランの態度も大いに笑えます。文庫版の表紙を添付しました。否応なしに象が登場することが分かります。

これほど世界的に評判になっていて、すでにドイツでは200万冊売れたという本が、いまだに和訳されていないというのはどうも理解しがたいです。先週ドイツのテレビ番組で、この小説がスェーデンで映画化され3月20日にドイツ封切りというニュースがあり、短いトレイラーも流されたのですが、監督と俳優のインタビューもあって興味深かったです。見たいと思うものの人口5万の街グミュントには映画館が二軒しかなく、最新の映画が上映されるのは封切り後数ヶ月たってからで上映期間も短いので夏に発売されるDVDを待つことになりそうです。
DVDといえば先頃、昨秋当地で評判になったアメリカ映画『バッド・グランパ』(BadGranpa)のDVDを見ました。こちらは86才のエログロじいさんが主人公であきれるぐらい下品でグロテスクで品格皆無。ストーリーを紹介するのも憚かられるほどです。しかし100才のアランや86才のグランパなどという超高齢の老人が主人公として小説や映画の中で矍鑠と跋扈するというのは今までなかったことです。「老人になりたくない老人」という心理的に不健康な状況に身を置く世の男性の方々にとっては、久しぶりに斬新なパワーを与えてくれる必読必見の作品だと言えましょう。