先だって仕事で植物中の酸について調べ物をしていた際、ホウレン草についての記事が目にとまりました。その内容は結論からいいまして、「ホウレン草に含まれる鉄は体内にほとんど吸収されない」というものです。
ホウレン草といえば、鉄分を多量に含む野菜としてよく知られていますが、実際には
100グラム中3mg前後でそれほど多いとはいえません。
この矛盾は約100年前に、ある分析家がホウレン草中の鉄を定量する際、コンマをまちがって一桁右へずらしてしまい、10倍の量が報告されたことに起因するようです(真偽のほどは確かではありません)。
爾来、ホウレン草ぎらいの子供にとって受難の時期が続くことになり、これを緩和するため、1929年にポパイが登場したことは周知のとおり。ポパイのおかげでホウレン草の売上が大幅にあがったとかいうことは想像に難くありません。
しかし鉄がそれほど多く含まれていないというのはまだしも、同じくホウレン草に含まれるシュウ酸が鉄と結びついて、鉄が体内にほとんど吸収されないという説は、いいかえればホウレン草には鉄は実質的に含まれていないということを言っているわけで、ホウレン草の神話は崩れてしまいます。
とはいえ鉄の有無を別にしてもホウレン草にはビタミンAおよびC、そしてβ-カロテンなどが十分含まれているわけで、健康によい野菜であることについては疑いの余地はありません。しかし鉄に限って言えば他の緑黄色野菜、たとえばブロッコリーでも十分間に合うわけで、なにもホウレン草に限らなくてもよいことになります。
これが世のホウレン草ぎらいの子供たちにとって福音となるのでしょうか?このあたりを探るべく、小生のラボの女性のひとりに聞きますと「我家ではホウレン草が食卓から消えて久しいです。ホウレン草の鉄分が無意味だってことご存知なかったんですか?」と軽蔑のまなざしで睨まれ、別の女性には聞きもしないのに「人間の体は鉄分をある一定量しか吸収できないので、むやみに鉄分を摂取したって意味ありません」と薀蓄を傾けられ、いやはや食品化学に造詣の深いスタッフばかりで、ドイツ人主婦の栄養についての関心の強さをあらためて認識させられました。
スゴスゴとオフィスに戻り、昔日に思いを馳せたのですが、小生も子供のころ「ホウレン草のおひたし」を強制的に食べさせられた経験があります。「何も無理して食べることはなかったか…」と一杯食わされたような気分になるのは、あながち小生だけではないように思うのですがどうでしょう。今でこそホウレン草を食べますが、どこかに「滋養分のあるものを食べているのだ」という妙な満足感があることは否めません。








