先日、日本からの来客があり、この方と家内の間で「数え方」について面白いやりとりがありました。
日本人が例えば冷蔵庫に入っているビールの本数をチェックする場合、1.2.3.4.5と数えるのに、まず手を開いてそこから親指から順に手のひらに向けて人差し指、中指、薬指そして小指と折っていきます。そして最後には、じゃんけんのグーの形になってビール瓶は5本あると確認します。そのことを数メートル離れて居間にいる家内に「5本あるよ」と今度はじゃんけんのパーを作って本数を示します。
この一連の動きに面喰ったのが融通の利かないドイツ人の家内でして、「なぜ冷蔵庫の前では指を折ってグーを作り、離れたところにいる人にはグーではなくパーを示すのか?」と、くだらないことに本気で議論を吹っ掛けてくるのです。つまり「同じ5本なのだからグーかパーがどちらかにしろ」というわけです。

扉が開いた冷蔵庫の前で指を折って物を数えるのは、自分自身の確認を兼ねて数えることができるからです。そして5本なら5本と確認できれば、もうグーは必要ないわけで、グーをパッと開いてパーにして、わかりやすいように相手に手のひらを見せるまでの話です。
ところがドイツ人の場合は冷蔵庫の前でも、少し離れたところにいる人にも、じゃんけんのパーで示します。つまり親指から順に手のひらから外に向かって指を立てていくわけですが「3つ」を示す場合は、親指、人差し指、中指と立てていくことになり、中学の理科で習った『フレミングの左手の法則』ような按配になり、各々の指が違った方向を向いてしまいます(写真参照)。
「4つ」を示す薬指も怪しい方向を示し、指を5本そろえて立てた時点でちゃんとした形のパーとなります。さらにパーの手のひらではなく、手の甲を相手に示すのです。甲を裏返して手のひらを見せようとはしません。
「指折り数えてグーを作って、せっかく作ったグーをパッと開いて、おまけに裏返しにして手のひらを見せるというのはどうも無駄のように思える。ドイツの数え方のほうが指を立てればそれでおしまいなのだからよっぽど合理的だと思う」と家内は言うのですが、指の折り方ひとつにも日本人の繊細さを見ることができます。ドイツの「3つ」を示すフレミングの法則のような歪んだ無骨な形は日本人の嫌うところです。
「5つ」を示す手の形はグーもパーも両方あってしかるべきだと思います。時によって(無意識に)使い分けるということに何の矛盾も感じません。「数え方」を通じてドイツ人的な見方を再認識させられました。