先回予告しましたように相対性理論について記しますが、前置きが長くなりますのでどうかご了承ください。
小生が住む街はシュヴェービッシュ グミュントといいます。長ったらしい名前ですが、グミュントという地名はドイツでは結構多いのでシュヴァーベン地方のグミュントという意味からこの名前になっています。日本でいえばさしずめ河内長野(河内地方の長野)という市名にあたります。この市はドイツ16州のうち一番南西部にあるバーデン=ヴュルテンベルク州に属し、この州の左半分をバーデン地方(ライン河を隔てた対岸がフランスです)、右半分をシュヴァーベン地方と呼んでいます。州全体の庁はシュヴァーベン地方のシュトゥットガルトにあります。
で、このバーデン=ヴュルテンベルク州なのですが、ドイツ人からみてあまりいいイメージはありません。ガメつい、そしてシュヴェービッシュという極めてアクの強い方言がこの州の代名詞です。あえていえばドイツの関西です。こういったマイナーなイメージを払拭しようと、州政府がプロの広告エージェンシーを起用し、「我々はなんでもできる…標準語以外…バーデン=ヴュルテンベルク」というマイナーなイメージを逆手にとったキャッチフレーズをテレビ、ラジオ、新聞、雑誌で流して大いにウケています。
さていよいよ本論に入ります。今年はアインシュタインの相対性理論100周年で各地で彼にまつわる展示会が催されています。アインシュタインはバーデン=ヴュルテンベルク州(正確にはウルム。とはいえドナウ川をはさんで対岸がバイエルンという別の州で、ギリギリのところです)の出身ですので、上記のキャッチフレーズにもったいをつけて以下のような「相対性理論」にからんだ州の広告を著名な科学雑誌に掲載しました。
“物体は速く動けば動くほど、時間はゆっくり経過します。あなたがこの広告を列車かヒコーキの中で読むと、早く読み終わることになります“
さらに『バーデン=ヴュルテンベルク州では他所よりも早く天才になります』という意味の宣伝文句を付記したのですが、数学や物理の予備知識がなくてもこの文章が正しくないことはすぐにわかります。そしてチュービンゲン大学(むろんバーデン=ヴュルテンベルク州にあります)の宇宙物理学のルーダー教授が「まったくのデタラメ。読むという行為は固有の静止系の中で行われるので、列車内であろうがヒコーキの中であろうがかかる時間は同じ。最も根源的な事柄が間違って記述されている。このようなデタラメの記述が州の紋章と共に公表され、税金が使用されているというのは恥の極み」と知事に抗議の手紙を送りつけました。州庁内では「ドイツにおける研究開発のトップ州」を自認する役人の間でたちまち問題となり、広告エージェンシーが非を認めて以下の文章を次号に掲載したのですが、これが裏目にでました。
“より高いところにいると、時間はより速く経過します。退屈されているのでしたら当州のフェルト山(標高1100メートル)へ登るとよいでしょう。”
そして今回は『頭のいい人はバーデン=ヴュルテンベルク州で快適に過ごせます』という宣伝文句を付記したのですが、これにも上記の教授が「物理的に見て全くデタラメ」と噛みつきました。州政府が相対性理論を皆目理解していないということは誠に恥ずかしい限りであるが、もっと恥ずかしいのはフェルト山の標高(1493メートル)を知らないことであると付記して再度知事に抗議文を送りました。
さすがに業を煮やした担当官は広告エージェンシーに厳重な抗議を申し立てたのですが、「ある教授に一読してもらって、誤りが指摘されなかったので掲載した」とこちらは平謝りしながらも戸惑うばかり。この誤りを指摘しなかった(あるいはできなかった?)教授がバーデン=ヴュルテンベルクの出身でないことが州関係者にとってせめてもの慰みだったということです。








