小生がドイツで住んでいる街の近郊にロルヒ(Lorch)という名前の小さな街があります。古くは12世紀に赤髭公バルバロッサのおひざもとということで繁栄しましたが、今ではその面影はありません。この街には有名な僧院があり、かつてはメリケが牧師として赴任していたのですが、説教を垂れるのが大嫌いで、ひなたぼっこばかりしていたという逸話が残っています。有名とはいえ国際的に有名というのではなく、外国からの観光者はまず来ません。僧院内には歴史的な建物が残っており、小さな薬草園と小高い丘からの美しい景観で週末は地元民がよく訪れています。
先月、知人とその家族と共に久しぶりにこの僧院を訪れたのですが、庭で鷹匠のトークと実演があるというので見ることにしました。まず出てきたのが梟。梟はてっきり夜行性だと思っていたのですがそうとは限らないですよね。そのあと鷲が出てきて、高く投げられた餌を空中でキャッチして、「よく餌付けに成功しているな」くらいの印象だったのですが、最後に鷹が登場して、鷹匠が長いロープの先につけた模擬の兎をブンブン唸らせながら振り回すと、鷹が空中から何度もアタックをかけてるという実演。ドイツでは鷹狩は知名度がかなり低いせいで、知人が『初めて見たよ!驚いたね!すごい!』と大いに感嘆。こちらはさほど感心もせず、「日本では鷹狩は冬の季語にもなっていてロマンがあるのに…でももう、ごく稀なんだろうな…」と考えてそれっきりでした。
このロルヒの鷹匠のことを思い出したのは数日前にドイツの週刊誌で「ユネスコの世界文化遺産には無形文化財も考慮の対象になりうる」という記事を読んだ時です。そういえばこれまでの世界文化遺産というのは建物や地域ばかりでした。記事にはアラビアでは鷹狩が最も高貴なスポーツとみなされていて、8月下旬にエミレーツで鷹狩のワークショップが行われ、参加国はフランス、スペインを含めて11ヶ国。この勢いで鷹狩を世界無形文化遺産に登録させるという意気込みです。ここにいたって鷹狩=冬という小生の日本的イメージが完全に崩れてしまいました。
で、アラブが鷹狩なら…と他の国も、お国自慢の世界無形文化遺産登録を狙います。まずドイツはかの有名なミュンヘンのオクトーバー・フェスト(ビール祭り)ですが、伝統こそあるとはいえ肩車ならぬ腕車を組んで歌唱するなどおよそ文化とは言いがたい。失格!オーストリアは白馬が音楽に合わせて踊るスペイン乗馬学校を推すようですがどうでしょう…この伝でいけばスペインのロデオ、日本の茶道、華道なども候補にあがって百花繚乱の様相を呈することになるのでは…と思いましたらすでに現在のところ107カ国から111件の申し込みがあるということです。来年5月にパリで登録認定の発表があるとのことですが、そもそも基準がはっきりしないのに、はたしてどんな無形文化財が認定されるのでしょう?鷹狩は当確と思えるのですが…