早いもので本年も来週から師走の候となりました。今年もいろんな出会いがあったな…と思いを巡らしていて今夏、東部オーストリアの鄙びた村で見た樫の老木を思い出しました。

この樫はヨーロッパで最高齢とされており、高さがおよそ30m。幹の直径は2,50m。周囲の長さが8,75m。樫のそばにあるベンチの長さが2m以上ありましたから、この樫の大きさをご理解いただけると思います。 1970年代に落雷があり、コンクリートを注入して補強を図ったものの木の内部に水が溜まり腐敗の危機に陥ったのですが1989年に腐った部分を除去し、管を入れて水はけをよくしたことで再び生気を取り戻したという説明が木の前の立て札に記されていました…蛇足ながらベンチの後方は玉蜀黍の畑で一帯は小高い丘の上にあります。
しかしどのようにしてこの樫の木の樹齢を測定したのかは記されておらず、年輪を数えようにも伐採されていませんので、おそらくドリルで管状のサンプルを取り出して年輪を数えたのでしょう。しかし1000年というのはすごいな…と漠然と感心していましたら、偶然ラジオから「年輪から過去の気候の遷移を解釈できる」という、非常に興味深いテーマについて専門家のコメントが流れてきましたので、しばし耳を傾けてみました。
年輪の間隔が狭いとその年の夏はその樹の生育はよくなかった、つまり乾燥がちで気温もさして高くはなかった。逆に年輪の間隔が広ければ生育がよかったということで、湿気が十分あり、気温も適切であったということになります。その結果、西暦10世紀中頃から13世紀中頃までは温暖であったが、それ以降は寒くなり「小氷河期」といわれる期間が20世紀初めまで続きます。そして20世紀中頃からまた暖かくなったということがわかります。しかしそうは言ってもはたしてこの寒暖の差が1℃なのか2℃なのか正確に把握できないといいます。そりゃそうですよね…温度計なんてものが登場するのが18世紀になってからですから…そして2003年の夏、ヨーロッパを襲った未曾有の酷暑はおそらくこの1000年あるいは過去2000年で最も暑い夏であったと考えられるようです。しかしこれはひと夏だけの現象で、1980年代から2010年ごろまでは温暖化が進んだものの、現在では温暖化は進んでいないようです。そしてもうひとつ小生の関心を強く引き付けたのが、人類と気候の変遷の関連です。19世紀のヨーロッパにおける産業革命は人類が気候に影響を与えるようになったきっかけだと思っていましたが、このラジオの解説では人類は工業産業の発展によって初めて気候に影響を与えるようになったのではないと言います。それ以前に人類は伐木(開墾)によって7000年前から、つまり新石器時代からすでに気候に影響を与えていた、つまり原生森林はヨーロッパではとうの昔になくなってしまっていた、もちろん新石器時代から人類が大気中の二酸化炭素の量の異常に関与していたというのではないが、大気に影響を与えていたことは確かであるという意見でした。どうも合点が行かない説で、オゾンホールはどうなのだと聞きたくなりますが、年輪に反映されるのは先のことかもしれません。
ドイツでは樹齢1000年の樹は珍しいとされています。日本では樹齢のことになると縄文杉が出てきますが樹齢が3000年とか…白神山地のブナも随分齢を重ねているのでしょう。しかしこれらの樹木の生息地は世界遺産に登録されている原生森林です。ヨーロッパでは原生森林がとうになくなってしまっているということを考慮すれば、上記の樹齢1000年の樫の樹というのは植林されたものなのですね。縄文杉とはかなり事情が違いますが、村民に愛され続けている貴重な自然資料だと思えます。