昨秋あたりから家内がリンゴに対して敏感になり(リンゴを食べると口腔内や唇がピリピリするようです)、さらにリンゴだけではなく酸味のある果物にも敏感になるようだということで、歯科医にテストをしてもらうと、家内はリンゴだけではなく、小麦やジャガイモなどにも敏感に反応すると判明しました。リンゴは家内の大好物、そして小麦、ジャガイモはドイツ人の主食です。はて、どう対処するかと思っていましたら、リンゴをバナナに、そして小麦をスペルト小麦(ドイツ語でDinkel)にあっさり変更。ジャガイモはいまのところ避けています。
とはいえ小麦はパンやパスタなど多くの食材の原料です。そして小麦を受け付けない体質のドイツ人は先天性、後天性を問わず少なからずいるようで、スペルト小麦を原料とした食品がけっこうあります。まず小麦粉ですが、ためしにキッシュをスペルト小麦粉で作ってみたところ、生地を捏ねる段階でふつうの小麦粉よりは柔らかく、少しべとつく感じがしますが、味にも色にも違和感がありませんでした。つぎにパンですが普通のパン屋でスペルト小麦全粒粉のパンが購入できます。ドイツで一般的なパンは小麦とライ麦の混合で茶色っぽいので、スペルト小麦のパンの見かけは普通のパンと変わりませんが、全粒粉を使用しているからでしょうか、味や舌触りはいささか違います。パスタもスーパーで見かけるスペルト小麦由来のものは全粒粉を使用していまして、かなり茶色っぽい。フジッリを食してみたのですが、普通の小麦粉由来のフリッジと違ってアルデンテにならないのです。おまけに茹であがりが蕎麦のような色合いのフリッジに赤いトマトソースはマッチせず食欲はそそがれません。また色彩的にサーモンに非常によく合うホウレン草の入ったタリアッテレが茶色になってしまえば台無しです。ことスペルトパスタに関しては食感的にも視覚的にも問題が大ありです。全粒粉であることがその原因のようですので、そうではないスペルト小麦粉を探してみるつもりです。なおご参考までにスペルト小麦と普通の小麦の比較写真を添付しました。穂が長く茶色い方がスペルト小麦です。

栄養価に関しては、ミネラルやビタミンの含有量からみてスペルト小麦は普通の小麦に勝ります。そもそもスペルト小麦が古代からの小麦で、いわば小麦の本家。20世紀に入ってから合成肥料を用いて収穫を増やそうとするようになり、収穫が少なく殻の分離が面倒なスペルト小麦は主役の座を追われることになりますが、近年の小麦アレルギーの増加に伴って脚光を浴びるようになり、また健康食品志向のブームと相俟って自然食品専門店だけではなく、パスタの項で記しましたようにスーパーでもスペルト小麦食品が購入できるようになっています。さらに熟していないスペルト小麦もあり、こちらはグリーンスペルト(ドイツ語でGruenkern)といいます。グリーンスペルトが文書に登場するのは17世紀の中頃で、降水量が多い夏にスペルト小麦がまっすぐ伸びす横倒しになることがよくあったらしく、困った農民がまだ熟していない緑色のスペルト小麦を刈り取り、火にかざして乾燥させました。このようにして得られたグリーンスペルトは挽かれずにもっぱら炊かれていたのですが、案外美味なのであえてスペルト小麦の一部をグリーンスペルトの段階で収穫するようになります。連日スペルト小麦というわけにもいかないだろうし、グリーンスペルトを試してみたら?と家内に提案しましたら、意外なことに「まだ食べたことがない」というのです。近々試食させてみるつもりですが、実は小生にはグリーンスペルトには苦い思い出があります。前妻が滋養食品に凝っていた時期があり、三日と空けずグリーンスペルトが食卓に出たのですが、当時幼少の長男とともにネをあげてしまいました。爾来30余年、グリーンスペルトを一切口にしたことはなく、すでに一児の父となっている長男も同様です。いい機会ですので小生の舌が大昔のグリーンスペルトの味をいまだに覚えていて拒食反応を起こすかどうか試してみようかと考えています。
家内の上記の食品に対する過敏症が一時的なものなのか、慢性になるのか、はたまた過敏症がアレルギーに移行するのか不明ですので、しばらくはスペルト路線を暗中模索することになりようです。