十和田市現代美術館

昨年11月の旅行記の締めくくりとして、十和田市現代美術館について記したいと思います。

この美術館はもうずいぶん前から訪れたかったところなのですが、如何せん遠いです。6年前に所用で青森市に行った際、八甲田を経て奥入瀬の散策道から十和田湖、そして十和田市内に入ろうとしたのですが、十和田湖から現代美術館までクルマで1時間以上かかると聞いてやむなく断念したことがありました。今回は早朝東京を発って新幹線で七戸・十和田駅下車。美術館だけを見て回ることにしました。

ホテルから歩いて美術館へ向かう途中、カラフルなバスに出会い、なんだか期待通りの作品に出合えそうで気分が高まります。さっそく歩道に無造作に置かれているクッションが目に付きました。凹みがあって誰かが横たわっていたように見えますが彫刻ですので触れると冷たく固いです。

美術館の中に入るとチケットカウンターの床が色とりどりのテープで貼られていて強烈なインパクトを与えてくれました。そして最初の展示室に設置された巨大な老婦の像には圧倒されてしまいました。この像は美術館の代名詞のようになっていて、至る所で紹介されていますが、実際に対峙するとものすごい迫力です。前妻の親族がオーストリアの農家で、休暇は子供たちとその近くの山村で過ごすことが多かったせいか、こういった感じの農家の老婦というのはよくみかけていましたので、この彫刻の細部まで完璧に表現した像(かっぷくのいい体躯、顔の皺、毛髪、厭世感ないし諦観の表情)には感嘆しかありません。

館内にはこのほか、すばらしい作品が設置されていて、とても見ごたえがありました。

じっくり鑑賞したあと外へ出ましたら、道路の向こう側の広場にいる大きな「おばけ」が視界に入ってきました。裾をひるがえしながらこちらに向かって浮遊してくるような錯覚に陥り、接近してみましたら 「よく来たね!」と言われたような錯覚に陥り、横から観察しようとしましたら、飄々と去っていくような錯覚に陥り、いい年をしてどうやら白昼夢を見ていたようです・・・

・・・ふと我に返り、他の作品を見て回りましたが、卓越した奇抜さ、意表を突く表情、思わず微笑んでしまう構図など、いづれもユニークで、とても楽しかったです。

美術館を訪れて、これほどの満足感を得られたのは初めてでした。最後の日本旅行で十和田まで出向いた意義がここにあったと確信した次第です。(2024年2月)