先月中旬のある日の夕刻、針鼠を自然に返しました。昨年晩秋に庭で見つけて保護し、冬眠後世話をしていたのですが、今までにないほど手のかかる針鼠でしたので、記してみたいと思います。
昨年11月のある晴れた日の昼下がり、おぼつかない足取りで拙宅の庭を歩いている針鼠を家内が窓越しに見つけ、「うーむ、どうしたものかな…ずいぶん小さいし…保護してもしなくても今日明日のうちに死んでしまいそうだ…」と独り言を言いながら思案投げ首。
横で見ていて腹が立ちましたので「思案などするヒマがあるんだったらすぐに捕まえて来なさい!保護するのが当然でしょうが!」とキツく指示しましたら気を取り直した家内が難なく捕まえてもどってきました。
針鼠は初め怖がって針を立てて丸くなっていましたが、家内が針鼠の血を吸って大きくなっているダニを十数匹、針の間からピンセットでうまく取りだして撫でていますと針鼠は顔、手足を現し始めました。
体重を測りましたら230gしかなく、毎晩かなり贅沢な餌を与えていましたが一週間ほど経っても体重が全く増えませんので、「野生動物収容所」で診てもらいましたら「寄生虫にやられています。当方にしばらく預けてください。2~3週間後に迎えに来てくれれば体重は倍にはなっています」というありがたい提案。3週間後に迎えに行きましたら随分元気になっていて体重が650gと倍以上になっていました。「代金は?」と聞きましたら、「適当と思える金額を銀行口座に送金してくれればいいです」との返事。皆目見当がつきませんでしたが6000円を指定された銀行口座に送金しておきました。
そうこうするうちに冬眠に入る時期になりましたので、以前購入してあった兎用のケージに餌用と水用の皿、ならびに寝所として内部を断熱材で囲った段ボールの箱を置いて冬支度は完了。最後にケージを毛布で覆って4月中旬まで、家内は針鼠の世話をする義務から解放されました。
針鼠が冬眠から目覚めたのは4月中旬。芝生の上に2mx4mの柵を設置して中に針鼠を入れ、4~5日、外界の空気に慣れさせたあと、柵を取り去って逃がしてやりました。そそくさと去っていく後ろ姿を見て「自然に帰っても十分生きていける」と家内は確信したようです。ちょうどいいタイミングで娘一家が拙宅に滞在していまして、孫二人は生きた針鼠を直に見ることができて喜んでいました。
この針鼠とはもう二度と会うことはないでしょうし、よしんば再会したとしても他の針鼠とは区別がつきません。しかし今回の針鼠にはどういうわけか右頬の一部に赤毛が密生していましたので、見ればわかると家内は言います。7月は針鼠の交尾期で拙宅の庭も賑やかになります。はたして家内は右頬が赤い針鼠に出くわすのでしょうか。(2023年5月)









